Contrasto 〈3〉

   

 この店を持つまで、柏渕さんはいくつかの誰もが知る有名企業で、経営関係の仕事にたずさわってきた。

転換のきっかけとは何だったのだろうか?

 「これまで仕事の関係などで海外に出かける機会が多かったのだけれど、いつも気になっていたのは、他国と比べて日本の文化がどんどん無くなって来ているということだったんです。先に挙げた道具の例もそうだけど、街づくりや空間の色の使い方まで、思想がないと言うか、節操がない。良いものを壊していくことばかりでなく、新たに作るものにしても文化的フレーバーを感じるものが凄く少ない、そう感じていました。日本には優れたアーティストや職人がいるはずなのに、使う側が下手クソということなのでしょうか」。

 「ところで、自分は学生の頃から絵を描くのが好きだったし素人芸ながら器も作るんですが、プロ志向の才もないというのがわかったのが45歳を過ぎたところでした(笑)。それなら、文化の再発見や浸透に役立てる仕事をやっていきたいと感じていたことがきっかけです。いささか抽象的取り組みになりますので、まずそのコンセプト店舗として昨年Contrastoを立ち上げたわけです」。





実際に店を開いてみてどうか?

 「むずかしいなあと感じたのは2つ。まず認知度。お客さまに店のことを知ってもらうのが予想以上に難しかった。今も思案中です。もともと門外の人間だから、以前からのお付き合いでお客さまを誘致するような技も持ち合わせていなかった」。

 「もう一つは、実際知っているけど立ち寄っていただけない人が多いということ」。敷居の高さを感じてしまうのだろうか。しかし柏渕さんが大事にするのは、売り手と買い手の身近さだ。「マス商品でない以上バイヤー(仕入れ)とセラー(売り手)は一体であるべきだと思う。デパートではなく専門商店である意義はそこにあるのではなかろうかと」。


 白山通りを歩いて、店の前を通りかかったときには、外から眺めるだけでなくぜひ店の中に足を踏み入れてみてほしい。店主が各地から集めた陶磁器たちは、見ているだけでも楽しい。店内では柏渕さんが丁寧に相談に乗ってくれるだろう。取材中もお客さんが一人店にやってきた。柏渕さんと商品を一つひとつ手にとりながらゆっくり相談した後、彼女は気に入ったものを買うことが出来たようである──。

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